現代の医療は、医師、看護師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、薬剤師をはじめとする様々な職種の「医療人」の協同作業「チーム医療」でなりたっています。
それぞれの医療人は、異なった学部、学科、専攻、コースで教育され、専門的かつ高度な知識と技能を身につけた専門家として医療の現場に送り出されます。従来の学部カリキュラムでは、養成課程の学部教育においては、お互いの交流が図られる機会はあまりありませんでした。
一方、群馬大学の昭和キャンパスには、医学部医学科、医学部保健学科、医学部附属病院が密接に配置されています。群馬大学医学部では、従来から全人的医療を目指したチーム医療教育に取り組んできました。この全人的医療とは、単に病気を診るだけではなく、患者さんを社会面・経済面・心理面などの様々な視点から捉えながら、患者さんと一緒に病気を治療していく医療のことを指します。
「総合的学士力の育成に向けたチーム医療教育」のプログラムにおいては、このような恵まれた環境の下で、学部学生時代から学科、専攻、コースの枠をこえた医療チームの一員として共に学び、それぞれの職種の特徴や役割を互いに理解する中から、総合的な学士力の育成を図るものです。本プログラムは、群馬大学医学部のこれまでの伝統と実績を生かして、必ずや大きな成果を生むものと期待しています。
医学部の学士力には、①知識:世界の国々の多様な社会、政治、文化、自然環境等への理解とそれに基づく医療保健人のあり方、②技能:語学力とインターネット等による情報収集分析力と課題把握力、③態度:医療保健での多職種間協働に必要なコミュニケーション力、チームワーク力、リーダーシップ力、④創造的思考力:課題に柔軟に対応する判断力と行動力、の育成が不可欠です。本取組みの対象である「チーム医療教育」は医学部の学士力育成の根幹と位置づけられ、これまで態度における学士力向上に寄与してきました。本学の「チーム医療教育」は医学科学生の参加により医学部全体の取組みとなり、大学間ネットワーク「Japan Interprofessional Working and Education Network: JIPWEN」を構築し、このネットワークを母体としてWHOとの連携活動が開始されました。
世界的な保健医療人材の不足は深刻かつ早急に対応すべき問題となっています。国際連合が掲げる目標(Millennium Development Goals /MDGs)として、AIDSやマラリア、インフルエンザ等の深刻な感染症の対策、小児及び周産期死亡率の低下は重要な課題であり、その対策として保健人材育成は急務であり、アジア、アフリカ諸国においては生命の存続に直結しています。この現状から2006年のWHOのレポートでは、深刻な問題を抱える地域の保健人材の有効活用として、チーム医療は欠かせないとの認識に至り、チーム医療教育の重要性がクローズアップされています。
こうした国際情勢を背景にして、「チーム医療教育」で育成される態度について教育効果の検証を行い、客観的なエビデンスを論文として発信します。一方、学生や若手教員のWHOや海外の大学と主体的な交流を推進し、医学教育の国際学術会議の運営にも積極的に参画させることにより、国際的視野に基づいた知識・技能の学士力を磨きます。さらに、こうした未知の体験の中で、数々の挑戦・失敗・工夫・成功を繰り返して創造的思考力を育成します。
「チーム医療教育」を題材として、これまでに培ってきた国際社会とのネットワーク活動への積極的な参加により、医学部における学生の学士力や若手教員の学士力養成能力が高まることを強く期待するものです。